必要なのは新しいことではなく、今よりうまくいく方法

久しぶりになりましたが、前回からの続きで。新しく世界を開くときに必要なのは「新しいこと」ではない、と書きました。ではなんなのでしょうか?

それはたぶん、「今よりうまくいく方法」なのです。アップルのデザインボス、Jonathan Iveに再び登場してもらいましょう。

Q: What are your goals when setting out to build a new product?

A: Our goals are very simple – to design and make better products. If we can’t make something that is better, we won’t do it.

Q: Why has Apple’s competition struggled to do that?

A: That’s quite unusual, most of our competitors are interesting in doing something different, or want to appear new – I think those are completely the wrong goals. A product has to be genuinely better. This requires real discipline, and that’s what drives us – a sincere, genuine appetite to do something that is better. Committees just don’t work, and it’s not about price, schedule or a bizarre marketing goal to appear different – they are corporate goals with scant regard for people who use the product.

Q: 新製品を開発する際に目標としていることはなんですか?

A: とても単純です。より良い製品をデザインして形にすることです。今よりよくならないのなら、やりません。

Q: アップルの競合はどうしてそれができないのでしょう?

A: 私たちのやり方は本当に少数派です。ほとんどの競合相手は何か違うことをするか、新しく見せることに興味があるようです。僕に言わせるとそれは根本的に間違った目標です。製品は真の意味で進化していないといけません。それには強く自分を律する必要があり、そしてその自制−よりよいものを作りたいという真摯な本物の欲望−こそが、僕たちを押し進める力なのです。皆で話し合ってものづくりをしてもうまくいきません。問題は値段でも、発売時期でも、新しく見せかけるための広告宣伝でもありません。そういったものは製品を使う人のことを考慮していない、企業側の目標です。

実際、新しい(と見える)ことをやるだけならいろいろなアイデアが浮かんでくるでしょう。別のものを組み合わせてみてはどうか、便利な機能を足してみてはどうか・・・ただ、それだけで結果がついてくるわけではないのはこういった商品が照明しています。

一般的な製品論は横に置いておいて、自分自身の人生を変えたい、と考える際に、僕たちはよくこの「やたらに足す」ことをしてしまいがちです。習い事を始める、自己啓発本を読む、運動する、などなどですね(全て僕も経験済みです)。でも、本質的に必要なのはもっと単純で、「今よりもっとよいやり方」だけなんだろうと思います。

この設問は単純ですが、難しいです。「新しいこと」をやるだけのほうが簡単です。何が今までと違うかは(表面的には)わかりやすいですから。でも、「今よりよい」になると、どうしても「じゃあ今」とはいったいなんなのだ、という問題に行き着きます。それは結局、「自分とは、自分の世界とは、自分の人生とは」いったいなんなのだ、というあまり直面したくない現実に向き合うことになってしまうからです。

新し(そうな)ことをするだけなら、自分と向き合うなどという面倒なことは必要ありません。だからこそ、アップル以外の会社はみなそうするし、僕たちもそうします。新しいだけなら、楽なのです。もっとよくしよう、となると、とたんにめんどくさくなります。でも、そうでないかぎり、世界を切り開くことはできませんからね。