アップルの製品をデザインしてきたジョナサン・アイブのインタビューが最近話題になっています。僕が今これを書いているMacBook Airも彼の手によるものです。世界で最も有名なデザイナーなのですが、目立つことがきらいであまりしゃべりません。今回ナイトの称号をもらえるようで、それにちなんでのインタビューのようです。
あまり人前にでないので、アップルストアに入っても従業員にしか気づかれない、とのこと。(意訳は僕です)
Just one person looks twice at Jonathan Ive as we walk through theApple store in London’s Covent Garden and that’s a member of staff. The customers are oblivious to the presence of the man responsible for the design of the computers, iPads, iPhones and iPods that they are admiring, tapping and caressing throughout the shop.
Jonathan IveがCovent Gardenのアップルストアに入っても、注視する人が一人しかいない。それも従業員だ。客は自分たちが愛しているiPad, iPhone, iPodをデザインした男の存在を気づくことなく、店内で製品をいじったり眺めたりしている。
謙虚な態度は「We」を常に使う態度に表れている、とインタビュー記者も誉めています。(ただこれは、本人が謙虚であろうとなかろうと、組織の長としてそういう態度をとらなければいけない、という努力の賜物である可能性もあります。スティーブ・ジョブスだって「We」を使いましたから。)
And yet Ive appears to be quite a gentle person. There are long pauses after each of my questions as he considers his answer and orders his thoughts. When he talks about his work with Apple, he almost always talks about “we”, rather than “I”.
アイブはとても物静かな人物のようだ。私が質問すると、回答を考慮して考えを整理するかのように、毎回長い沈黙が続く。アップルでの仕事について語るときは、必ずといっていいほど「私たち」といい、「私」とは言わない。
さて、今回のインタビューで一番僕が反応したのは、次の一文です。
“I think subconsciously people are remarkably discerning. I think that they can sense care.”
「人は無意識のレベルで深く見抜く力を持っていると思う。(僕たちが)心を込めて仕事をしているかどうか、わかるんだよ」
言葉を変えて言えば、自分が手を抜いたとわかっているときは、人もわかっているのだということです。アップルが徹底して細部にこだわるのは伝説となっていますが、そこまでするのは理由があるということですね。カタログや見かけに反映されなくても、ちょっとしたゆるみや甘え、傲慢さは「なんかいやだな」という言葉にできない気分で、客にばれます。
僕もテクニカルライターの仕事を何年か続けて、「専門家」として見られるようになってきました。自分がいったん「そう見られているな」と思い始めると、「どうせミスはわからないし、指摘できないだろう」と、気を抜いてしまいがちになります。
それがどれだけ「王様は裸」の発想なのか、思い知らせてくれる一文でした。手を抜いたらばれます。みんな言葉にはいえないから指摘しないだけで。