体調が悪いときは中華料理は食べられない。油や香辛料の使い方によるのだろうか、味と匂いを想像しただけで体調をより悪化させることができる。だから上海や台北に滞在している最中は、ひとまず苦労する。
多分中華料理は、健康で逞しく育っていることを前提に作られているのだ。
体調が優れているときは日本料理を無性に食べたくなる。味付けが薄く消化がよく、欲を言えば一点だけ刺激があるようなもの、例えばおかゆと梅干のようなものだ。ああ、想像しただけで食欲がわく。
多分日本料理は、体に刺激を与えないことを前提に作られているのだ。
海外に滞在している間に、日本料理を食べたい、と本気で思う唯一の瞬間がこれだ。体調不良の時:風邪、下痢、熱射病、なんだっていいが体力が弱っているとき。そんなときは栄養のつくものを食べるべきだ、骨付きの肉だ、山のような唐辛子だ、燃えそうな量の油だ、と頭では思うのだが胃袋が全身の神経と前立腺を味方につけて、「嫌だ」と自己表現をする。
単に食べなれているだけではなく、日本料理に特有のあの柔らかさ、歯ごたえの無さ、味付けの薄さなどが総合的に「刺激薄し」となって弱った体にも受け入れられやすいのではないかと思う。どうだろう。これが本当であれば(本当だと思うのだが)、日本は今すぐ病院食を世界中に輸出するべきだ。日本の病院で出される食事、じゃなくて、病気の時に作る料理(粥、玉子酒、茶漬け、もろもろ)をアレンジして輸出するべきだ。絶対に儲かる。それを食べるためだけにわざと入院もできる。病院で目をうつろにしながら働くERの面々も食事を心のよりどころにして職場に踏みとどまり、尊い仕事を続けることができる。ジョージ・クルーニーのようなおぢさんが卵粥で口の周りを黄色くしながら老人を励まし、インターンの学生に指示を与え、美人の患者に色目を使い、同僚の女医から指摘される煮え切らない態度について弁解する(全て同時進行)。