Masada

イスラエル滞在中にMasadaの砦を職場の同僚と共に訪れ、夜明けを眺めた。
Masadaは2000年前に岩山の頂上に作られた要塞だ。かいつまんで歴史を解説すると、その当時ローマ帝国の圧政下にあったユダヤ人が耐えかねて反乱を起こし、ローマ軍と戦いながら北方、死海のあたりまでたどりついて最後に立てこもったのがMasadaになる。源氏と平家の争いに無理やりたとえれば壇ノ浦に相当する。

四方八方を岩山に囲まれた砂漠の真ん中でぽつんとそびえるMasadaは砦としては絶好のポジションを保ち、数年間難攻不落を誇ったが兵糧攻めに遭って力尽き、ローマ軍に破られる直前に生き残った1000人弱ほぼ全員が自害して果てた、というストーリーを前回訪れた際に現地のガイドが5回(2回行きの車中で、3回現地で)、繰り返して教えてくれた。捕虜として処刑されるよりは自ら命を絶ったのだ、がポイントだ。
イスラエル人、ユダヤ人にとっては聖なる地なのだ。ちなみにこの事件以降ローマはユダヤ王国を完全に滅ぼして、世界中にユダヤ人が散らばる原因にもなった。おとなしくしておけば国家が存続させてもらえたかもしれないのに・・・と今ふと思った。

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夜が明ける前に登り始める。Masadaの岩山を登る方法は2つある。ひとつはSnake Pathと呼ばれ、一番険しい角度の場所をジグザグに彫られた山道を歩く。体力的にきついだけではなくて、ここを上ることは先祖に敬意を表する意味でも重要だ。しかし怠け者の我々は反対側のRoman Pathを歩く。午前3時に起きて出発したのだから多少の手抜きはよしとする。同僚がホテルの部屋へ迎えに来てくれたのだが、僕は寝ぼけて起き掛けに「しまった、電話会議を忘れてた」と返事したらしい。さすが仕事熱心な日本人だ、と思われたかどうかは知らないが2日後には社内全員に知れ渡った。長い間、笑い話のネタになるだろう。実際は無職無収入住所不定で困っている夢を見ていた。

Roman Pathは文字通りローマ軍が作った通路、という意味で、写真のすり鉢上に盛られた土山はローマ軍がせっせと積み上げた名残だ。彼らは道を作るのにユダヤ人の奴隷を使ったので、砦に立てこもった人々も同胞を攻撃するわけにはいかず、道が出来上がった時点でローマ軍の侵入を許す羽目になった。さらに上空からのMasada写真はこちらから。要塞、ということばがいかにしっくりくるかがわかる。同時にRoman Pathの跡もくっきりとわかる。右下の白い筋だ。

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各所から人が集まり、夜明けを待つ。富士山の山頂で夜明けを待つのもこんな感じだろうか、というくらい静かで厳かな雰囲気が漂う。普段はハイなイスラエルの人々も静かに風景に溶け込む。

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朝5:30に夜明けの瞬間。向こうに広がるのは死海。

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ガイドのお姉さんが大学生くらいの連中を引き連れて説明を始める。もちろんほとんどの人間は聞いちゃいない。学生の振る舞いは世界共通だ。しかし簡単にめげないのが彼らのいいところで(時として悪いところでも)あり、「これは大事だからよーく聞きなさいよ、そこのあんたそれ以上大声を上げると承知しないわよ、ほらほらこっち向いて」てなことを延々と続けて解説、というより熱演を入れる。タフだなあ、と感心して見ていた。

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建物部分を観察する。理路整然としている中に、ところどころ迷路のようになっている箇所がある。そういうところを「探検」するのはいつでも楽しい。決められたコースを歩くだけ、に面白みも意味もないと思う。壁に落書きするのはだめだけど、気の向くままに歩き回ったり登ったりすることはやってしまえばいいと思う。肝心なことは昔にその建物を作った人々への敬意があるかどうかで、その気持ちさえ持っていれば、皆無茶なことはしないと思う。以前万里の長城を登ったときに、壁という壁が全て落書きで埋め尽くされている(彫り尽くされている)のを見てのけぞったことがある。Masadaでは人はよじ登り、余ったコーヒーを捨てる。でも落書きは少ないしごみも落ちていない。ほどよいバランスが保たれているのは、やっぱり特別な場所だからだろうか。

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先端部分から下を眺める。

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お姉さんは熱弁を続ける。努力の甲斐あり、学生たちも耳を傾ける。

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東京では今年記録的な猛暑だったが、湿度が低いだけでイスラエルでも同じ目にあった。東京と違ってこっちは毎年死ぬほど暑いので、だからこそ死海の塩分濃度が高すぎるのだけど、学生たちも死ぬ。

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ユダヤ教の信者たちが集団で祈りを捧げていた。帽子(ヤマカン)をかぶり、ケープをまとい、仏教に似た感じで手を合わせて旧約聖書を読む。旧約聖書はキリスト教、イスラム教、ユダヤ教共通で使っている。元は同じなのに何が間違って今のようになってしまったのか。一人で祈るより、10人以上で祈るほうがより効果的なのだそうだ。なので信者の同僚も彼らに混じって祈った。彼らはイギリスに住むユダヤ人の若者たちで、祖国との一体感を高めるためにイスラエルを3週間かけて旅しているそうだ。Masadaの地はその中でも特別な部類に入りそうだ。

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ここでも討ち死にしている。