President of the United States

昨日に続いて人物とその役割について考えている。今日はアメリカの大統領。

物心ついたときにアメリカで大統領を務めていたのはカーターだった。1980年よりちょっと前だ。その頃僕が知っている大統領というのは、「世界で一番偉い人」だった。

その頃、マルタ島の映画館で毎週欠かさず新旧・傑作駄作ごちゃまぜの映画を見ていた。ほかにやることがなかったからだが、その映画の中に「スーパーマンII」があった。今から見ると相当にちゃっちい特撮と無理なストーリー展開でも当時はみんなだまされて、空を飛ぶ気分で見ていた。その中で、スーパーマンと互角の能力を持つ3人の悪者がアメリカの大統領を追い詰めて国を明け渡すよう要求するシーンがある。確か、大統領は「世界平和のためなら、従おう」といって彼らの前に跪く(ひざまずく、という漢字があるのですね)のだ。映画を見ているこっちも、本当に世界全体が屈服したかのように悲しくなってしまった。子供心に、アメリカの大統領は世界の平和と秩序を象徴していた。スーパーマンの人間版だった。

レーガンが登場して、神話に少しほころびが出た。彼の能力については今でもほとんど理解していない。ほころびは、彼が政治家を志す前の職業だ。映画俳優、しかも大根役者(B級俳優)だったというのを知った。バック・トゥ・ザ・フューチャーの中でも冗談のネタにされていた。マイケル・J・フォックスが未来から来たことを信じようとしない博士が30年後に何が起こっているかを聞きただすシーンがある。
「じゃあ答えてみろ。アメリカの大統領は誰になっている」
「・・・・・ロナルド・レーガン」
とマイケル・J・フォックスが決まり悪そうに答えるシーンだ。
大統領という存在の神々しさは薄れたが、アメリカという国に対して抱く幻想は強化された。あそこでは売れない俳優でも大統領になれるのか、すごいなあ、だ。

ブッシュ(親父)が登場して、イラクに対して湾岸戦争をしかけた時点で、さらに幻想は減った。具体的に何が悪いとか間違っているとかはうまく言えなかったが、中東の小国家に対して本気で戦争をしかけるところが大人気ないというか、弱いものいじめをしているように感じたのだ。正義と世界平和の秩序のためだ、と彼は言い、アメリカ国民の大多数もそれを支持し、日本は黙って従った。僕もそんなもんだろうか、と納得しようとした。少なくともこの大統領には戦争というたいそうなことを始めるだけの決断力がある、いいか悪いかは別にしてリーダーとして必要な資質を備えているのだろう、と考えた。
10年近くたって、その戦争が世界平和と秩序維持のためだけに行われたわけでなく、大統領に決断力があったかどうかもあやしいことが明らかになったきた。イラクにしてみれば用意周到に仕組まれた罠、と考えたほうがいいことも。
大まかな事情はこのを通じて知った。
もうひとつ面白かったのはスリー・キングスという映画だった。湾岸戦争で描かれなかった実態をドキュメンタリー風にしたてて、かつ娯楽として面白いものにしていた。イラク兵がアメリカ兵を捕虜にして、湾岸戦争の目的について尋問するシーンがある。
「お前らは何のために戦争をしている」
「世界の平和と秩序を守るためだ」
「ふざけるな。こいつのためだろ」
といってイラク兵はアメリカ兵の口に黒い原油を注ぎ込むのだ。
こんなことをx0億円かけてやってしまえるというのはすごいなあ、と今度はハリウッドに対して幻想が強化された。

クリントンの時代になって、僕の中でアメリカ大統領という存在はついに「神」から「人間」に格下げとなった。ブッシュ親父の時は神でも間違えるか、だったがクリントンは違う。やることなすことあまりにも人間くさい。サックスを吹いてみせ、女子大生とXXな関係を楽しんでいた。とんでもなく優秀なことは間違いないのだろうけど、人間すぎるくらい人間だった。そう思っても悪い気分ではなかった。
女を見る目がなくても(何が悲しくてモニカ・ルインスキーに手を出したのだろう)、職務遂行能力さえあればOK、と判断を下すアメリカを見てそうだよなあ、と感心していた。昔、日本にも愛人から匿名で訴えられて失脚した総理大臣がいたことを思い出した。もともと能力がなかったからそれでもいいけど、能力があってもスキャンダルひとつで失脚したのだろうな。能力があれば島耕作のような女関係をもってあたりまえ、などと考えるつもりはないけど(しかもあの漫画の中では奥さんの方から離婚を申し出ている。都合がいい話だ。売れるわな。というか自分も読んだのだけど)、リーダーの仕事は決断することなのだから、それ以外は大目に見てやればいいのにと思う。件の首相に決断力があったとは思えないけど。

ブッシュ息子の時代になり、アメリカの大統領に対しての幻想は幻滅にとってかわられた。無知で粗野で尊大であっても自信がありそうに見えればそれでOKなのか、と彼を選出しただけでなく再選までしそうなアメリカ人に対しても幻想が崩れた。だいたいどこの国だって、指導者に選ばれる人間は1.強い(そうに見える) 2.失業を減らす(約束をする) この2点を押さえていれば人格異常でも犯罪者でも独裁者でもOKっぽいが、アメリカもやっぱりそうなのだろうか、と考え始めた。
ブラジルには黒人がいるのか?という発言なら僕だって何年か前やったことがある。アフリカから売り飛ばされた奴隷の多くが実は北米ではなく中南米に送り込まれたことも知らなかった。聞いた話では、彼は大統領になる前にアメリカ・メキシコ・カナダ(パスポートいらない)以外の国へ行ったことが一度しかないそうだ。
悪口を言うのは僕一人ではないようだ。3週間アフリカをぐるぐると旅行した際に、ブッシュのことをよく言う人間は白人・黒人・黄色人種を問わず一人もいなかった。アメリカ人にはほとんど会わなかったので聞いていない。