鏡としての中国

中国関連の記事が溢れ返るこのごろで、妙に気になった事件があった。
中国は現在ワイヤレスLAN(マクドナルドやスターバックスの中でインターネット接続する際の規格ですね)に独自の仕様を作っている。その内容をおおまかに言うと:
・その仕様を満足しないと、中国ではワイヤレスLANが使えない(日本でアメリカの携帯電話が使えないのと同じ理由で、電波を相互に飛ばすためのお約束事が違う。中国でワイヤレスLANを使うためには、絶対にその仕様を満たした製品:チップを買うか、作るかしないといけない)
・仕様は中国政府が管理している(中国政府と仲良くしないと、チップが作れないし買えない)
・外国企業は、中国の国営企業とタイアップしないとワイヤレスLAN関連のチップを作る許可が政府からもらえない

中国政府にとっては、外国企業の技術力と資本を入手し、国営企業とくっつかせることで国内産業の保護と育成も行い、膨大な中国国内の市場から得られるだろう利益をもらい、さらに電波の規格を牛耳ることでインターネット上の「不適格な」情報も排除できる、といいことづくめだ。

で、インテルとかブロードコムとか、ワイヤレスLAN用のチップを作っている欧米(アメリカ主体)メーカー達がそれに反発し、そんなこというならお前の国にはチップを売らねえよ、今までのように世界統一規格(つまりアメリカの規格)に沿っていくなら別だけどね、と将来の中国でのチップ製造&販売計画をチャラにしてしまった、というものだ。大義名分もある。特定の国にだけ通用するような狭い規格は、技術の発展をいずれは止めてしまう。パソコンやインターネットの発展の歴史を見てみろ、広く浅く、世界中で使える規格があったからこそここまで発展してきたのだ、と。
日本のメーカーがどう反応したか、書いた記事は見ていない。たぶんいつものように、様子を見てから多数派に(なるべく静かに)くっつこうか、と態度を決めていないのだろう。アメリカには絶対に反対できないし、かといって中国でさらに反日気分をあおるのもできないし。

ちらりとこの話を聞く限りでは、なんて中国はわがままなんだろう、インテル達の言うことはもっともだ、と思いそうなのだけど。。。。ちょっと待てよ、中国がやるよりとっくの前に、インテルやらマイクロソフトやら、日本だってNTTやらは、規格を牛耳ってそれを悪用することを散々やらかしてきたのではないのか。
インテルは自分達が作ったチップ本体ではなく、それを差す「ソケット」を特許で固めてしまって、他のメーカーが互換性のある、安いチップを簡単に作れないようにしたのではなかったのか。マイクロソフトはインターネットエクスプローラーをウィンドウズに同梱してしまって、ネットスケープのブラウザを徹底的に使いにくくしてきたのではなかったのか。NTTは携帯電話に関して、日本国内でしか通用しないPDCとかいう規格を作ってメーカーを囲い込み、おいしい商売をしてきたのではないのか。

要するに中国は「お前らがやってきたんだから、次は俺達の番だ」と主張しているので、それ自体は立派に理屈が通るのだ。アメリカは中国がいかに危険な国であるか、自由貿易を踏みにじろうとしているのか、という建前を押し出して「お前らに甘い汁を吸わせるわけにはいかない」とその主張を退けようとしている。

中国がとったこの行動をアメリカは非難するけれど、それをやればやるほどこれまで自分達が行った来たことの「裏」の面をも世界にさらすことになってしまう。中国から発せられるメッセージは、それが明解なだけに、当事者にはやっかいなものだ。日本や韓国など、アジアのほかの国々だって中国と同じようなことをやろうとしてきたことだってあったが、今回の件ほどに対立がはっきりしたことはなかったのではないだろうか?日本だって農作物の輸入でもめたことはあったけど、日本は「主張」していなかった。黙ってやり過ごそうとしてきただけだ。主張する、リードをとるのはあくまでもアメリカだったのだ。

中国は日本と違う。彼らは主張をする。主張の内容が正当か否か、洗練されているか否か、はそれほど関係ないように思う。面と向かって主張される、ことをアメリカはヨーロッパ以外に経験してきたのだろうか。対立を深めれば深めるほど、自分の負の姿までもが皆にさらけ出されることになる。かつてのソ連のように、対立の内容が完全に白か黒か、判断つけられないことのほうが圧倒的に多い。もっと重要なことに、何といっても市場があるから、アメリカは中国と付き合わざるを得ない。姑が新しく入ってきた嫁と同居しはじめるように。都合が悪ければ無視するわけにも(日本およびヨーロッパ)、敵と決め付けるわけにも(ソ連)いかない。その意味で、中国はアメリカにとって歴史上はじめての「他者」になるのではないだろうか、とぼんやり考えた。絶対に100%は理解できない、理解してもらえないことを前提につきあわなければいけない存在に。