Israeli Way

勤めている会社の研究開発部がイスラエルにあるおかげで、イスラエル人とのおつきあいする機会が多い。
世界中からユダヤ人が集まって国家を作っているだけはあり、彼らの外見も文化的背景もまちまちだ。会社にも地元?出身者以外に直接知り合っているだけでロシア、イラン、アルゼンチン、ウクライナ出身の人間がいる。全員ユダヤ人であり、れっきとしたイスラエル人だ。

以前、アメリカのシンシナティ出身の友人が人種のるつぼ、合衆国を指して”There’s no such thing as ‘American’.” 「アメリカ人、などというものは存在しない」と言っていたことがあるが、それ以上に「イスラエル人」という定義づけは難しそうだ。
しかしそんな状況でも、彼らと接していると皆、ある共通点を持っているようだ。
「穏やか」であることと「忍耐強い」ことだ。Calm and Patient.

トラブル発生で怒りまくっている客先の前でも、一見無茶な要求をつきつける営業の前でも、彼らが「キレる」瞬間を見たことがない。相手の言動を黙って受け止める場合も、反論する場合もあるが、絶対に理性を失うことはない。そして自分の立場を自分から妥協することもない。数時間、はたから見れば悪夢のように居心地の悪い空気が続くと、たいていの場合相手(客先とか営業)が疲れてしまって、どうでもいいか、みたいな雰囲気が流れはじめる。そこでイスラエル人の側から「こんな感じで手を打ちませんか」みたいな案が出ると(実は最初に主張していた内容と大差なかったりする)、相手はついそれに乗ってしまう、そんな感じだ。同じ状況にあるのが日本人だと、しばらくは黙っているが最後に突然感情を爆発させる。欧米人だと、感情を爆発させないまでも、行動でそれまでの関係を断ち切る。どちらも極端な場合だけど。

なぜそこまで忍耐力があるのか、と彼らにたずねると次の2種類のうちのいずれかの回答が返ってくる。
1.本国イスラエルではそれ以上にむちゃくちゃな議論が起こる(収集がつかない状況をヘブライ語で「バラガン」と言う) It’s always Baragan. 客先や営業の要求などそれに比べればかわいい。
2.Tomorrow is the first day of the rest of the life. いつ死んでもおかしくない、と訳すのがいいのか。これはまあ・・・
個人的にはそれ以外に、「プライドがとても高い」という要素もあると思う。ぶっちゃけて言えば、自分たちより劣る人間に何を言われても、別にどうということはない、という感覚だ。まだ直接確認できていないけど。

以前イスラエルへ出張したときに、死海の横にあるMasadaの砦を見学したことがある。古代ローマがユダヤ人に圧制を強いていた1000年以上も前に、900人あまりのユダヤ人が立てこもって反抗した砦だ。最後に押し寄せるローマ軍に耐え切れなくなったとき、彼らは捕虜になる前に全員が自害する。朝になってローマ軍が砦の門を破ったときは、死体だけが残っていた、という話だ。そういう話なら世界中にあるのだが、イスラエルの尋常でない点は、未だに一般人がそれを誇りに思っていることだ。ガイドのおじさんだけでなく(少なくとも5回、この話を聞かせてくれた)、僕と同年代の(30くらいの)同僚達も「誇りに思っている」と自然に語る。僕が父親や祖父の世代に対しては(個人は別として)尊敬などこれっぽっちもしていないし、それより昔の人たちのことは何も知らない、と答えるのとはまるで違う。
アジア出身の人間はどれだけプライドが高くても、どこかに欧米へのコンプレックスを持たざるを得ない(今のところは)ところがあるような気がしているが、彼らにはそれもないだろうな。

国籍で人間を色分けすることは抵抗があるけど、ある程度の特性というのはやっぱりあるのだろうな。