Fullfilling job

CTIの研修でご一緒したが書かれた夢さがしエトセトラを読んだ。(それにしてもAmazonでは何故坂本龍一著、と紹介されているのだろう?)
中学生、高校生に対して興味のある職業をアンケート調査し、その結果に基づいて各界から30人のインタビューが、どのようないきさつで今の仕事をしているのかと、若い人たちへのアドバイスを中心に納められている。
この本を読むといいだろうな、と心に浮かんだ人たちは次の2つのグループだ。
1.本を出版したいと、ぼんやりにでも考えているけど具体的にどうすればいいのか、不安な人たち
2.思春期の子供を持つ親

1.については「素人」として本を始めて作り始めた、といういきさつがあるし、それ以上に感じたのは読んでいて「試行錯誤」の跡が時々伝わってくるのだ。具体的にはインタビューの流れが、毎回すこしずつ違うように感じる。これはプロが作ったインタビュー集でも同じようなことが起こるのだろうが、結果として出来上がる本からその跡が伝わってくることはめったに無い。
例えば所々流れがあまりスムーズにいかないところがあったりする。回答者に多く語る気が無いのか、質問がつぼをついていないのか、回答がさらりと終わってしまうために著者があれもこれも、と質問をたくさん出して、何かを引き出そうと苦労しているところなど。質問の項目は多くなるのだが、それに比例して内容が濃くなるわけではない(コーチングの練習や、交流会での会話などで、自分が同じような苦労をしたことを思い出したため、なぜかぐっときてしまった)。また、回答者から個人的な、深い内容の話が引き出されたところなどは、質問の数に関係なく読んでいて(本来の著者の意図どおり)ぐっとくる。
インタビューが時系列で並べられていたら、著者が経験を積んでインタビューに「流れ」を作り出せるようになってくる過程までもが見えたのだろうな。時々「あら」のようなものが見えても、本来のテーマさえはっきりしていれば大丈夫なのだな、と読んでいて感じた。これから本を作ろうとしている人は大いに参考になるのでは。
2.については、まず「10代の若者にとって、親の世代のアドバイスや経験はすでに参考にならないのでは?」ということを感じてしまったことから始まる。インタビューを受けた人のアドバイスを見渡すと、次のような傾向があるようだ。
・とにかくやってみることが大切
・その仕事についてからも、勉強はずっと続く
・自分の専門分野以外のことについても好奇心を持って勉強することが大切
また、その職業につくまでの経験については、意外とふらふら(寄り道)している時期が長かった人が多い(特に年配の人に)。ただ、結局は子供のころにやりたかったことに近づいていくようだ。
これらのことは全く持ってその通りだと思う。だが、今の、またこれからの社会にもそのまま当てはまって役に立つとはどうしても思えない。
ネガティブになっていく面からいうと、
社会が全体的にリスクをとることを恐れている状況で、「とにかくやってみる」ことに積極的になれるだろうか?初めて仕事についた瞬間から「即戦力」を要求されるような理不尽な状況で、いろいろなことに興味を持ったり、ましてや寄り道などしたりする余裕が得られるだろうか?「即戦力」=「既にある程度の適応をしている」を意味するからだ。
これらのことは全て程度問題であり、いかなる状況であれ「できなくなる」ことはないだろう。だが、明らかに親の世代は、今と比較してこうした「試行錯誤」がやりやすい、余裕のある社会で生きてきたのだ。サラリーマンが夜遅くまで働いていた時代は過去のことである、と錯覚しやすいが、実際はリストラされずに働いている今のサラリーマンの負担は増加しており、しかもこのままでも将来はなんとかなるだろうと本気で考えている人間は天才か、ただの馬鹿のどちらかだ。今となっては上にあげられたようなアドバイスは、都合のいい理想論、と見るほうが自然なのでは、と考えてしまった。
今の僕がそれらのアドバイスにうなずいて、かつ実行できる環境にいるのは、仕事も収入も時間も余裕があって、いろいろなことを実行しつつも考えられる立場にいるからだ。余裕が無くなったらたちまち視野も心も理想も狭くなるだろう。そして10代のうちからそんな余裕を得られるのはほんの一握りのはずだ。
ポジティブになっていく面でいうと、
親の世代と今の10代の世代で決定的に違うのは「選択肢の多様さ」だろう。本に納められた30種類の仕事が、参考になるなど20年前でもありえなかったはずだ。
良くも悪くも親の世代と、今の若者の世代では、生きている前提条件が全く異なる。この本に納められたインタビューは、どちらかと言えば親の世代の心情に近いのでは、と思ったのだ。だとすれば、かえって10代の子供を持つ親がこの本を読み、参考としてもう一度希望を探すことを始める、というシナリオのほうがなんかうなずけるしてっとりばやいのでは。結局、親が夢を持たない状況で子供に希望をもつことを期待するのは不可能に近いし、アンフェアだろう。子供に希望を持ってもらいたいのならば、まず親が持つべきなのだ。こんな単純なことが、どうして声高に叫ばれないのかは興味深い。誤解されると困りますが、本の著者を責める意図は全くありません。
では若い世代が真に参考とできるようなインタビューとして、どんな選択肢があるのだろう?思うに、これから日本が歩もうとしている社会を既に先取りしている国で、夢を捨てずに生きている人たちから話を聞く、というのが意外と効くのでは?思い浮かぶのは、イギリス。日本と同じようだな、と感じるのは1.ルールが厳格なところ と2.経済の絶頂期を過ぎたこと 3.少子高齢化が(日本ほどではないが)進んでいる の点。ヨーロッパ全般でもいいのかもしれない。
もうひとつ、日本人だけど20代前半までの成功者、にインタビューの対象者を限定することも思い浮かぶけどなんか歪になりそうな気が。相当とんがった人が集まるのだろうから、「こんなこと私にはとてもできない」と思わせる本になるのだろうか・・・

最後に、この職業の一覧になかったカテゴリーの人たちがいる。「(普通の)サラリーマン」と「(普通の)公務員」と「フリーター」だ。中高生のアンケートを元に作られたのだから、こういう人たちには魅力を感じていない、ということだろうか・・・アンケートの結果を見ていないので(見たいなあ)断定はできないけど。しかしあえて断定して考えると、過半数を占める階層が「魅力がない」とみなされている社会というのはなんなんだろう、末期症状だろうか、と一瞬考えた。僕も、上に上げた3つの言葉に魅力は感じない。もちろんはっきりとした目標があれば形態など関係ないのだろうから、一般論として。
「大手ゼネコンの総務部に勤続20年、リストラにおびえる加藤さん」なんてのはリアルでいっぱいいそうだけど、夢じゃないわな。そんなのがひとりぐらいいたらいいなー、と想像しながらにやにやしていました。